江戸時代から受け継がれる友禅柄を再現し、色鮮やかに染め上げる「型染め和紙」。

今回は夫婦で伝統的な柄を守り続けている『京染和紙 浅井長楽園』二代目、浅井吉弘さんにお話を伺いました。

■まず最初に、型染め和紙の「型染め」について
お教えいただけますか?

 そうですね…じゃあ、まず「型染め」と「型刷り」の違いを
ご説明しましょう。

 和紙を染める上で一番オーソドックスなのは「型刷り」
です。型刷りは、和紙に型を当てて、その上から金泥などを
刷って作ります。 こうすると、型のくり貫いた部分に金泥
などが載る訳ですよね。

 一方「型染め」っていうのは、金泥じゃなくて糊を刷るん
です。 和紙の上に糊がプリントされるんですが、これを
乾かした上でもう一度和紙全体を顔料で地染めします。
こうする事によって、先に糊が載った部分だけは色が
載らなくなるんです。 最後に糊を落とす事で、「型刷り」を
反転させたような白抜きの和紙が完成します。
これがいわゆる「型染め」ですね。

■なるほど。似ているようですが「型染め」は
「型刷り」の倍以上手間がかかるんですね。

 何倍もかかってしまいますね。まず和紙に糊を置いて、
乾かして…それから顔料で地染めして、乾かして…最後
に糊を洗い落として、乾かして…

■3回も…乾かすだけでも大変ですね。

 ええ、全部の行程を上手く回していかないと、時間の
ロスばかり生まれますしね。スピードも大切です。
あと気候にも結構左右されるんですよ、特に今みたいな冬は
のりがふやけにくかったり和紙が乾燥しにくかったりで、
ストーブ焚いて扇風機回して…一定の温度にするのも苦労しますよ(笑)
まあ夏は夏で大変なんですけどね、
糊が乾くのが早いから型にこびりついちゃったりして。

じゃあ、まずは型染め和紙の作り方からお見せしましょうか。

 という事で、早速型染め和紙の製作工程を見せていただきました。
工房は2階が型染めの作業場、1階が水洗いをする作業場で、
どちらの作業場にも沢山の型染め和紙が乾燥させられていました。

■では、宜しくお願いします。

 はい。まず最初に、和紙にしっかり型を当てて糊を置いていきます。
簡単にやってる様に見えますけど、素早く均等に糊を置けるように
なるのには結構熟練を要するんですよ。 特に今やってる、
枠の無い型は難しいんです。

あと、この糊にはわざと薄い色を付けています。
透明や白い糊だと、刷った柄が見え辛くて後で確認しづらいので。

なるほど、これだと良く柄が見えますね。

 で、糊がしっかり乾いたら地染めを行います。 和紙全体に顔料を
載せる工程ですね、30種程の色を用意しています。
ムラ無く均等に染め上がったらまた乾燥させます。
最後に、
糊を落とす為の工程の水もとを行います。 十分に乾かした
和紙を水槽にしっかり浸け、糊が浮かんできたら引き上げて
ハケで糊を落とします。 この時点でようやくクッキリと柄が見えてきます。

■これだけの工程をこなしても、和紙は破れたりしないんですね。

 そうですね、逆に言えばこれくらい耐えられる和紙で無いと型染めには
使えないという事になります。 この和紙については、
また後でゆっくりお話しましょう。

■それにしても冬場は特にきつい作業ですね、これは。

 ええ、昔は井戸水が出ていたから楽だったんですよ。
井戸水って夏は冷たくて、冬は暖かいじゃないですか。
型染め作業にはもってこいだったんですが、ずいぶん前に
枯れてしまいまして。 今は普通の水道水を使ってますが、
本当に冷たいですよ(笑)

 後は乾かしてカットすれば、型染め和紙の完成となります。
この工程を、上手くローテーションを組んで作業していく訳です。

前回に引き続き、伝統的な柄を用いて型染め和紙を作り続けている『京染和紙 浅井長楽園』さんへのインタビューをお届けします。

今回は型染めの命でもある『型』や『和紙』と、型染和紙を使った小物製作について二代目 浅井 吉弘さんにお伺いしました。

■棚にぎっしりとある型ですが、どれくらいの種類が
  あるんですか?

 そうですね、大体200くらい…いやもっとあるかな。 元は
京友禅の染型だったものを父が譲り受けたんです。
立涌、青海波、麻の葉など、どれも伝統的な柄で、 いたる所に
置いてあります(笑)

■凄い数ですね!よく見ると、型にも色んな種類がある
  様ですが?

 はい、スクリーンの型と紙の型がありますね。スクリーンの型は、
比較的寿命が長いんです。 木やステンレスの枠にしっかり張って
あるので型崩れも少ないですね。
紙の型は…何せ紙ですから
伸び縮みもしますし、スクリーンに比べれば脆いです。
でも紙の型はスクリーンの型より厚みがあるんです。
だから刷った時に僅かな立体感が生まれる。
出来上がった手触りも違うんですよ、味があるんです。

でもどちらも消耗品ですからね、丁寧に扱わないと。
型は使ったら毎回ちゃんと洗って、乾かして、補修もやって
おかないとすぐダメになってしまいますからね。 管理するのは
大変ですが、今は型を作れる職人さんも減ってきてしまいましたし。
型は財産ですね。

■なるほど…ちなみにこの和紙はどちらの和紙を使われて
  いるんでしょうか?

 福井県は小浜の、型染原紙を使ってます。水洗いにもしっかり
耐えられる、手漉きの和紙ですね。 この和紙も後継者や
原材料不足などで年々手に入りづらくなってきてるんです。

最近ではパルプが混ざったものや漂白剤を使ったもの、
機械漉きで生産されたものも和紙として 販売されてますよね。
和紙というものの明確な定義が無いから難しいんですが、
私は出来るだけ楮(コウゾ)を使った手漉きのものを
使い続けています。
手漉きだから多少は異物(繊維質や
茶色いスジなど)が入ったり、厚みにムラがあったりは
するんですが、 お客さんにも理解してもらえればと思っています。

 続いて、型染め和紙を用いた小物製作についてお伺いしてみました。

■浅井長楽園さんでは、型染め和紙を使った小物も製作されていますよね。

 これはね…今の仕事は私の父が40年ほど前に始めたんですが、
元々は千代紙だけを作っていたんですよ。 丁度その頃に和紙人形が
ブームになりましてね、1日1,000枚刷った事もありました。
で、和紙を適当なサイズにカットすると結構端切れが出てたんです。

 そのうち和紙人形のブームも去って、次第に千代紙だけでは手詰まりに
なってきて。 そんな時、端切れを使って何か出来ないかと思ったのが
きっかけでした。小物は全部女房が作ってます。
一番最初に作ったのは鶴のメッセージカードでしたね。

 当初、作った小物を知恩寺さんの手作り市で販売していたんですが、
これが思ったよりも好評で、だったらちゃんと製品化しようという事になりまして。
今ではメッセージカードやはがき、ブックカバー、箸置き、文香、明かりなども作ってます。

■手作り市もきっかけの一つだったんですね。今でも若い作家さんが
  沢山参加していますよね。

 そうですね。随分有名になりましたし、最近では県外からも沢山作家さんが
来られてるみたいで。 売場の確保だけでも大変ですよね(笑)

 手作りと言えば…私達の型染め和紙は、大量生産は出来ませんが色柄や
サイズの変更なんかは結構融通が利くんですよ。 お客さんの注文に
合わせやすいというのも、個人活動の強みかもしれません。

 結構メールなんかで海外から注文を頂くんですよ、先日もセンターへ
イギリスの方から別注が来ましたよね。

■結婚パーティーの招待状を、鶴付き和紙カードで150枚程欲しいという
  注文でした。 色や柄の指定もかなり拘られてましたね。

 注文の数や仕事の忙しさにもよりますが…この時はオーダーを貰ってから、
大体10日間くらいで完成しました。喜んでもらえたみたいで良かったです。

 あと、実は小物を作っているもう一つの理由に「和紙の使い道を広めたい」
というのがあるんです。

■使い道、と言いますと?

 今の時代、和紙は貴重だから飾ったり大事に保管したりしてる人が多いんですが、
元々和紙というのは素材だから、こうやって切ったり貼ったりして小物を作ったり
するのが普通だったんですよ。

 また、和紙は普通の紙に比べて丈夫なので何度でも折れるし、加工しやすいんです。
和紙を大事にして貰えるのは有難いんですが、 出来ればもっともっと和紙を使って
もらいたい、作る楽しみを知ってもらいたい。 こういうものも作れますよという
意味合いも込めて製品化しています。

 是非、自分で一つ手を加える、プラスアルファの楽しみ方をしてほしいですね。

京染和紙 浅井長楽園
浅井 吉弘

1953年6月京都生まれ
高校卒業時より父 吉朗氏と共に型染め和紙を創める
ブラジルへの農業移民をした際に今の仕事を見直し、
1998年より二代目として活動を再開する

協同組合 京都クラフトセンター会員



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